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『知っておくべき!』そばの美味しさ・楽しさ【そば汁編】

特集記事
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はじめまして。このブログ日刊『水と蕎麦 研究図鑑』を書いているS編集長といいます。僕は365日365店舗でそばを食べています。そば好きとそば業界全体の応援を目的にこのブログを始めました。
このページでは「そばの楽しみ方」を何処よりもわかりやすく、丁寧に、初心者の方でも全く問題ないように解説します。

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はじめに

この回では、そばの大事なパートナー“汁(つゆ)”について、解説します。
蕎麦屋の汁はスーパーで売ってるような既製の麺つゆを薄めたものではありません。
江戸蕎麦の老舗では、そば打ちは職人が行いますが、汁の味の調整は主人の仕事と言われています。
じつは汁にこそ、蕎麦屋のこだわりがあるのです。

出汁とかえし

そば汁は、出汁とかえしを合わせてできています。

 ・出汁・・・厚削り節を使い、長時間にて抽出する
 ・かえし・・・醤油、砂糖、みりんを煮詰めたもの

この出汁とかえしの合わせ方が、そのお店ごとの老舗の秘伝と言われています。
自分の店のそばに合った汁の味に合うように、毎日同じ味に合わせないといけません。
そばと汁を一緒にすすったときに、口の中でどちらか一方が目立つようでは駄目で、一体となってハーモニーを奏でるのが本当のそばの味わいなのです。

出汁の材料

よくある言い回しで「だしに使う」とあるのは、自分のために他のものを利用することを言います。この”だし”とは、そのまま出汁のことです。逆に言えば周りを引き立てる存在です。

蕎麦屋の出汁は主に荒節と本枯節を使います。

・荒節・・・鰹を切り分けて煮て、燻したもの。 見た目は黒くてゴツゴツしている
・本枯節・・・その後カビ付け(熟成)して天日干しをして、3~4回繰り返したもの。
       6か月~2年は熟成される。表面は茶色く滑らかになっている。

同じ鰹節でも荒節と本枯節では、味がワイルドかスマートかという差が出ます。老舗のそば屋では本枯節を主体に出汁をとっています。

そして、一般的な和食の出汁とりはふんわりと薄い花かつおを使いますが、蕎麦屋で出汁をとるときは、鰹節は厚削り使います。蕎麦屋の基本は「もり」、つまりつけ汁です。これは飲むための汁ではないのため、濃厚な汁にする必要があります。そのため厚削りの鰹節を長時間で煮立たせて濃い出汁をとるのです。

漫画『美味しんぼ』に紹介された老舗の名店「並木藪」では、 厚削りの本枯節を90分間ほど煮て、7升の水が3升になるまで煮詰めるとあります。蕎麦屋によっては鰹節に追加して、サバ節、宗田節、昆布や椎茸も出汁取りに使います。

かえしの種類

醤油、砂糖、みりんを合わせたものを「かえし」と言います。江戸蕎麦では、出汁に直接調味料を入れることはしません。刺身にも醤油をつけて食べますが、魚の脂で塩分が丁度良く合います。そばの場合はそのままの醤油では、塩分がとげとげしく感じてしまいます。そのために、お店で調味料をさらに調理して「かえし」を作ります。

かえしには3種類あります。

・本がえし・・・醤油と砂糖を混ぜ沸騰寸前まで火を入れたもの。醤油の辛さを殺してコクを出す。
  更科系の細くて水をよくきったそばは、汁を大量に吸うので本かえし。
・生がえし・・・砂糖を水等で火を入れて溶かし、生の醤油と合わせたもの。
  醤油の辛さを生かしてキレを出す。藪系や挽きぐるみのそばは、太めでそばが強いので生がえし。
・半がえし・・・前二つの中間で、火を入れた醤油と生の醤油を混ぜたもの

言葉の意味を補足しますと、“コク“とは色々な味が複雑にあること。”キレ“とは後味がすっと消えることを言います。
かえしも、当然ですがお店ごとに作り方は違います。前述の「並木藪」ではかめに入れたかえしを3週間寝かせます。酵母や乳酸菌の力で熟成させ、甘さが引き出され醤油の荒さを抑えるのです。
出汁とかえしの二つを合わせることで、初めてそば汁になります。この汁の合わせ方が老舗の秘伝なのです。

漫画『そばもん』(山本おさむ)のなかに、汁についての名台詞があります。
※主人公の祖父であり師匠のことば

「そば汁とは醤油が入っていて醤油が入っているとわかっちゃいけない。出汁がきいていて出汁がきいているとわかっちゃいけない。砂糖が入っていて砂糖が入っているとわかっちゃいけない。味醂が入っていて味醂が入っているとわかっちゃいけない。どれが勝ってもどれが負けてもいけない。ただ美味しいというだけである。食べた人に、何でこの味を作ったかと考えさせるように作らねば本当ではない。」

けだし名言ですね。

辛汁と甘汁

辛汁とはそばのつけ汁に用いる濃い汁の事で 甘汁とはかけ汁に用いる薄い汁を指します。甘汁はごくごくと飲める汁となっています。

かけそばよりもりそばの方がよく売れる傾向にあるので、辛汁を基本としてそれを二番だし汁で2~3倍にのばして甘汁とするお店が多いです。ちなみに二番だしは、一番だしのだしがらに水を加え、弱火にかけてゆっくりと残ったうま味を引き出したものです。
辛汁用と甘汁用と二種類のだしを別々にとり さらにかえしも区別しているお店もあります。

まとめ

「そばは汁にはちょっとしかつけない」とそばの食べ方ではよく言われます。

ただし前述の解説を踏まえますと、その決めつけは正しいそばの食べ方ではありません。藪系は香りを高くしたそばに辛目の汁、更科系は細いそばにやさしい汁と昔から言われています。また、そばと汁の関係はそば屋ごとに違います。なので、目の前にあるそばに合った食べ方をするのが正解なのです。

それでは目の前に出されたそばに合った食べ方とは、いったいどのようなものでしょうか。それを知るために、まず、そばだけを数本つまんで味わいます。そして汁だけを少し舐めます。
ふたつの味を見たうえで、汁に浸すそばの加減を調整してベストバランスで味わえばよいかと思います。

そして汁作りの苦労を思い、残った汁はそば湯で割って最後まで楽しみましょう。

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